特 別 決 議
近年の情報通信技術(ICT)は急速な発展を遂げている。特に音楽分野におけるオンライン配信ビジネスは急激に拡大し、ストリーミング配信サービス等へも大手企業が参入し始めている。
そして、このストリーミング配信サービスが音楽界に様々な変化をもたらすことになるのは間違いない。例えば、アーティストや実演家にとっては、まだ産業が初期段階ということもあり、支払われるロイヤリティは極めて少額に設定されている。これまでレコード・CD等の売上のみに頼って形成されていた音楽産業の利益配分が、大きく崩れることは避けられないだろう。また、文化的な側面に目を向けると、産業の経済的な縮小は、新たな創作物の再生産をも妨げることに繋がる。
これらの問題と同時に最も深刻な影響は、音楽配信をはじめとした情報の氾濫により、音楽(録音物等)の経済的価値が下落し続けていると共に、創作および実演の価値も、テクノロジーの進化に伴う価値・評価の変化に翻弄され、「音楽はタダ」の風潮が蔓延していることだ。
一九世紀末に誕生したレコードは、一方で実演機会の減少をもたらしたが、他方で、新たな音楽ビジネスの可能性を広げる結果となった。
後にラジオ放送が開始されると、スイッチを捻るだけで、何時でも「ただ」で音楽が流れるようになった。更に、放送でレコードが再生されることにより、実演家の機械的失業を生む結果となった。
これを踏まえ、一九六一年に作成された実演家等保護条約(ローマ条約)では、実演家に著作隣接権が付与され、放送における利益の一部が実演家に還元されるようになった。
このような実演と科学技術の関係を顧みる時、我々はオンライン配信ビジネスにおいても、新たな国際規範の整備は不可欠であり、現代版ローマ条約の整備が必要であると考える。
そこで音楽ユニオンは、今年末、オンラインミュージックに関する国際会議の開催を計画している。音楽家を取り巻く環境の変化に即座に対応し、更に将来に向けた研究を重ね、音楽家および音楽家社会に貢献することは、音楽ユニオンの重要な役割だ。
我々は、こうした活動を通して「知的創作物の衡平な再生産の循環」を実現させるための運動を展開し、音楽家社会の健全な発展に寄与することをここに決議する。
二〇一五年七月二十三日
日本音楽家ユニオン第三十五回定期全国大会